C3 01 市川 乃野
39 渡邊 琴美
①研究の背景
建築物が取り壊されているのを見て、たくさんの不要なコンクリートが排出されていることに気が付いた。そのコンクリートはどのように処理されるのか。また、処理の仕方によって何か実用的なものに利用することができるのではないかと思い研究してみることにした。
②仮説とねらい
コンクリートの主成分はセメントに含まれる炭酸カルシウムである。炭酸カルシウムは加水分解すると塩基性になることができるため、酸と反応して別の物質にすることができる。これを利用してコンクリート中の砂や砂利と炭酸カルシウムを分離させることができると考えた。炭酸カルシウムと反応して生成した物質は加工して実用的な薬品に再利用し、砂や砂利ももう一度工事現場で再利用できるのではないかと考察した。
③研究内容
〈実験1〉浜工の北館一階の渡り廊下の一部が欠けて出来たコンクリートの破片を採取し、6mol/Lの塩酸に入れて溶かす。
〈結果〉刺激臭の気体を発生させながら溶けた。その際、塩酸溶液の色が黄緑色に変色した。その溶液は時間が経つと、一部がゲル状になった。コンクリートから砂や砂利を分離することができた。砂や砂利に劣化した様子は確認できなかった。
〈考察〉黄緑色に変色した理由として、コンクリート中に含まれる不純物が反応したと考えられる。不純物が出来るだけ存在しない状態で実験する必要があると考え、次はコンクリートではなく、不純物及び砂や砂利を加えていないコンクリート、つまりセメントの破片で同じ実験をする。
〈実験2〉試料用セメントを作る。それを〈実験1〉と同様の手順でセメントの破片を6mol/Lの塩酸に溶かす。
〈結果〉〈実験1〉と同様に、刺激臭の気体を発生させながら溶けた。塩酸溶液は黄緑色に変色し、一部ゲル状になった。
〈考察〉〈実験1〉との比較から、溶かした溶液が黄緑色に変色した理由は不純物による物ではなく、セメントの成分が塩酸と反応して起こったからだと考えられる。これより不純物の条件を無視するために以降の実験からはコンクリートではなく、セメントを使う。
〈実験3〉〈実験2〉で得た黄緑色のゲルと水分を濾過して水分を取り出し、定性分析によって含まれている金属イオンを特定する。
〈結果〉カルシウムイオンと鉄(Ⅲ)イオンが検出された。
〈考察〉カルシウムが確実に存在していることが言える。鉄(Ⅲ)イオンの色は黄色である。〈実験2〉で生成した物の色が黄緑色なのは、鉄(Ⅲ)イオンが含まれていることが関係していると考えた。
〈実験4〉IR(赤外分光光度計)を用いて、セメントに含まれる接着剤について調べる。比較用として、酢酸ビニルを主成分とする木工用ボンドの膜を作り、IRにかけた。また、セメントに木工用ボンドを塗ってセメントの成分が付着した膜も作ってみた。
〈結果〉木工用ボンドの膜からはPVAc(ポリ酢酸ビニル)が、セメントに塗った木工用ボンドの膜からはPVAcと炭酸カルシウムが検出された。IRの使い方を覚えることができた。
〈考察〉セメントの表面には炭酸カルシウムが確実にあると言える。
〈実験5〉〈実験3〉の濾過した液体に6mol/L水酸化ナトリウムを加え、白色沈殿(恐らく水酸化カルシウム)を作る。濾過して白色沈殿をIRにかけた。また、水酸化カルシウムは無機物であるため検出できない。事前に試薬として水酸化カルシウムを用意しIRにかけ、その波長と比較することにした。
〈結果〉水酸化カルシウムが検出された。
〈考察〉セメントには塩酸と水酸化ナトリウムを加えているため塩が生成するが、水に溶けるため水で洗浄して水酸化カルシウムのみを取り出すことが可能である。(水酸化カルシウムは水に溶けにくい)
④技術的知識
〈定性分析について〉
定性分析により、未知試料に含まれているイオンを分析する。定性分析とは、成分が不明なとき、その成分が何であるかを特定するものである。
鉄イオン(Ⅲ)は、チオシアン酸アンモニウムと反応することにより、血赤色を示す。この性質を利用した。カルシウムイオンは、炭酸アンモニウムと反応させると沈殿ができ、濾過して再溶解後硫酸アンモニウムを加えると、カルシウムイオンを確認できる。この性質を利用した。
〈IR(赤外分光光度計)について〉
分析したい化合物に赤外線をあてることにより、その化合物に含まれる成分特有の波長の赤外線が吸収される。この特徴を利用し、化合物が何であるかを分析するものである。
⑤これからの取組
今回の実験では、どのような反応が見られるかを重視したため、使用した試薬の量が適切ではなかった。実用化に向けて最小限の試薬で最大限の生成物を得ること、無駄無く効率よく収集することが重視される。
〈試薬を無駄にしないために〉セメントを粉々に砕き、濃度を決めて水で薄める。ビュレットで少しずつ塩酸を加えて反応させ、反応しなくなったときの量を記録する。中和滴定のようにしてセメントを溶かすのに必要な塩酸の量を特定する。
⑥まとめ
コンクリートを溶かした後、沈殿物として成分を取り出すことができたため、実用化に一歩近付くことができた。
液体が黄緑色になったことやゲル状に変化してしまうという謎が残されているので、解明しなければならない。
実用化することができれば、資源のリサイクルにより環境への負担の減少が期待できる。